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エルゴチオネインは
高い抗酸化能力を持ちながらも安定な
天然のアミノ酸です

エルゴチオネインについて

エルゴチオネインとはどういう物質か

エルゴチオネインは硫黄を含むLシステインなどのアミノ酸が代謝されることで産生されるアミノ酸であり、放線菌、シアノバクテリア、分裂酵母などで生合成されることが知られています(文献1)。また、エルゴチオネインは生体の抗酸化剤として知られています。抗酸化剤は体内でDNAの損傷を引き起こすスーパーオキシドや過酸化水素を還元し、最終的に生体にとって安全な水へと変換するという重要な役割を持っています(文献2)。

​エルゴチオネインを豊富に持つたもぎ茸

生体における抗酸化作用とストレス

ご存知の通り、ヒトは酸素をエネルギー代謝に利用して生命活動を行っています。そして、摂取した酸素の数%はスーパーオキシドとなります。スーパーオキシドは感染したウイルスやバクテリアの殺菌のような防御機構、甲状腺ホルモンの合成など様々な生命活動に用いられています。しかし、過剰の場合は生体の細胞に酸化ストレスを与え、老化や疾患の元凶となるため、体内の酸化防御システムによって還元される必要があります(文献3)。

体内の酸化防御システムにはビタミンEが重要な役割を持ちますが、ビタミンEはスーパーオキシドや過酸化水素由来のOHラジカルによって作られた脂質ペルオキシラジカル(LOO・)を過酸化脂質(LOOH)に変換することで脂質の酸化の連鎖を防ぎます(文献4)。しかし、ビタミンEによるLOO・の還元にはビタミンCやグルタチオンとの連鎖反応が必要であり反応速度も遅いため大量に高速に生成されるOHラジカルを除去するためには十分ではありません。OHラジカルが大量に高速に生成されるストレスは、人口放射能、大気汚染物質(PM2.5、ディーゼルエンジン廃棄微粒子(DEP)など)、化学物質(石綿など)などが挙げられます。(文献3)。そうしたストレスに生体が曝露されると生体はウイルスやバクテリアの殺菌と同様に白血球を活性化させ大量のスーパーオキシドを生成し(文献5)細胞の損傷の原因となります。

エルゴチオネインの高い抗酸化能と安全性

エルゴチオネインはビタミンEやグルタチオンと比較して高い抗酸化能を持ちます。例えば、前述のビタミンEによる酸化防御システムを維持するためには酸化状態のビタミンEを還元するためのビタミンCとの反応速度が重要になってきます。しかし、この反応速度は約~ 4x10^4/Ms(文献6)と、放射線や化学物質によって生成される大量のOHラジカル(~10^10/Ms )(文献3)に十分に対応できなくなります。

ビタミンEの反応速度と比較してエルゴチオネインのOHラジカルとの反応速度は1.2x10^10/Ms(文献7)であり、非常に大きいことがわかります。また、エルゴチオネインと同じように硫黄を含むグルタチオンと比較してもその反応速度は一桁大きく(文献3)高い抗酸化能をもつといえます。

 

さらに還元の作用機序もビタミンEと異なります。ビタミンEは前述の通り脂質ペルオキシラジカル(LOO・)を過酸化脂質(LOOH)に変換することで脂質ペルオキシラジカルの連鎖的な生成を防ぎます。一方、エルゴチオネインはそもそも脂質の酸化が生じないようにOHラジカルそのものを超高速に還元して水を生成します。つまり、エルゴチオネインの還元作用はビタミンEが機能する前に生じます。また、この反応速度はOHラジカルとDNAやアミノ酸との反応速度よりも速い(文献8,9)ので、結果的にエルゴチオネインがDNAやアミノ酸を防御することができます。

また、エルゴチオネインは[イミダゾール+ベタイン]という生物界では非常にまれな構造を持っており、生体内のpH(pH7.4)ではグルタチオンの持つチオール基と比較して非常に安定です(文献7)。このため、グルタチオンのように血液中からむやみに酸素を奪って低酸素状態にすることや、タンパク質のジスルフィド結合を切断して立体構造を崩す(文献9)ことがありません。したがって、エルゴチオネインはグルタチオン等チオール型のアミノ酸と比較して体内で安全であるといえます。

エルゴチオネインの摂取と将来の展望

エルゴチオネインが非常に優れた抗酸化能を持つことに加えて、ヒトはエルゴチオネインを効率よく細胞に取り込むためのエルゴチオネイントランスポーターを持つことが知られています(文献10)。しかし、人間はエルゴチオネインを体内で生成することができません。エルゴチオネインを生成できるのは、キノコやコウジ菌など一部の微生物のみで含有量は微量で(文献10)現状これらの食物を摂取するしかありません。私達がエルゴチオネインの恩恵を受けるためには大量に生産のための技術開発が必要です。

将来的には、エルゴチオネインのもつ素晴らしい機能を利用可能にするために、既存のエルゴチオネインの大量生産技術(文献11)を応用しながら、すでに食品や化粧品市場にあるユーグレナ等の微細藻類由来の製品にエルゴチオネインを含有するアプローチによって、市場への流通を目指します(文献1)。

 
​引用文献

Current understanding of sulfur assimilation metabolismto biosynthesize L-cysteine and recent progress of its fermentative overproduction in microorganisms

1

Glutathione depleting agents and lipid peroxidation

2

エルゴチオネインの再発見 ―その特殊な機能と存在の意味―

3

Vitamin E: application of the principles of physical organic chemistry to the exploration of its structure and function.

4

Comparative Toxicity of Standard Nickel and Ultrafine Nickel in Lung after Intratracheal Instillation

5

Critical role of deep hydrogen tunneling to accelerate the antioxidant reaction of ubiquinol and vitamin E

6

The antioxidant action of ergothioneine.

7

Rate constants for the reactions of OH radicals with the enzyme proteins as determined by the p-nitrosodimethylaniline method

8

Biochemistry of the SH Group

9

長瀬産業 抗酸化作用に優れた天然アミノ酸「エルゴチオネイン」安価生産の特許技術が日本生物工学会大会の重要トピックスに選出

10

Gram-scale fermentative production of ergothioneine driven by overproduction of cysteine in Escherichia coli

11

​関連サイト

「ミドリムシ×麹」で酵素の力を増強。ユーグレナが『みどり麹』を開発

麹の製麹時に微細藻類ユーグレナを用いることで、 抗酸化作用を持つ硫黄化合物の含有量が向上する研究結果を確認しました